身体に合った椅子 その1 2007.1.10


 昨年、股関節を痛めて脚の曲げ伸ばしがつらいといういうお客様からのご注文で、座の高い椅子をお作りしました。谷工房では、これまで注文制作を主に仕事をしてきましたので、オンリーワンの家具作りのノウハウを生かして、スタジオ KUKUのバージョンでのオーダー制作となりました。

 
谷工房では、椅子をオーダーで制作するときには、定番のものは実際の椅子にお座りいただいて身体に合わせて細かい採寸をした後にその方の身体に合ったサイズで制作をします。まったく新しいデザインの場合は、「仮縫い用の椅子」を用いて採寸をしてから制作しています。

 KUKUでは、これまで膝の悪い方にも座りやすい低いスツールや、ゆったり腰掛られる椅子などは製作してきましたが、今回のようなタイプの高い座の椅子は、谷工房の仕事でも初めての制作となりました。
 
 まずお客様のお宅に伺って、ご希望の高さ、大きさ、形などを伺い、どのようなお部屋で使うのかも拝見させていただきました。すでにご使用の家具、壁や床になるべく合うように何の木を使うか、座の布や木地仕上げの色も考えました。
 ミーティングで意見を出し合いながら、おおよそのイメージをまとめ、デザインを考えて、何点かの図面とレンダリングを作成し、お客様に選んでいただきました。



 
デザインが決まったところで、モックアップ(実物大の模型)の椅子を制作。再度、お宅に伺って、座面の位置を変えながら実際に座っていただき、最終的なサイズや形を決定。ようやく、詳細が決まりました。これを元に図面を変更し、制作にかかりました。



 そして12月の末に無事、お客様のもとに届けることが出来ました。


 今回、この椅子を制作するにあたり、色々なことを考えさせられました。

 股関節を痛めた場合、屈伸の角度を大きくして立ち姿勢に近い座り方が楽なので、お尻だけちょっと支えるだけの椅子が整形外科の待合室にある病院もあるそうです。そのことを初めて知りました。
 これまで高めの椅子というと、キッチンスツールやカウンター用の椅子というイメージでしたが、身体の不自由さをカバーする機能を持たせるとともに、、立つ姿勢に近いということで、立ち仕事の補助や、楽器の演奏用にも応用が出来るのではないかと思いました。

 そして何よりも考えさせられたのが、現在、身体の不自由な方用の家具というものは、たくさん作られていますが、どうしても介助用というイメージが強く、デザインや素材もいいものが少なく、室内に置いたとき、他の家具と調和がとれずに浮いてしまったり、美しくないということです。 そして、そのような介助用の家具は、名前のとおり、実際に使う方のためというよりも、介護する人が使いやすいように作られている場合が多いことです。以前、福祉住環境コーディネーターの勉強をしたことがありますが、工房の家具を見慣れた私の目には、そこで紹介された家具を実際に室内で使うことをイメージした時、とても違和感を感じました。

 今回のケースのように、身体に障害があるわけではなくても、少しずつ身体の機能が衰えてきた場合に家具でそれをサポートすることが出来れば、日々の暮らしが少しでも心地よいものになるのではないかと思います。このようなことも、若い頃には考えたこともありませんでしたが…。


 年を重ねて分かったことは、子どもの身体が日々成長して変化しているのとは違い、大人の身体は少しずつですが衰えてゆきますので、筋肉もしっかりしていた若い頃に心地よかった椅子が部分的に身体に合わなくなってきていることです。お尻の筋肉も減ったため、以前は無垢の木の座がとても心地よかったものですが、最近は、長時間座るには薄い座布団を敷いたり、ウレタンのクッションや籐編みの座のほうが心地よくなりました。身体も丸みを帯びてきましたので、腰にあたって気持ちの良いところも微妙にずれてきました。
 椅子に身体を合わせるのではなく、身体に合わせてた椅子がいかに大事か実感しました。

 次の機会に、この高座椅子をもう少し詳しくご紹介したいと思います。