信州木工会木工研究会によるウィンザーチェアー講習会への参加  2013.10.8


 10月5日、信州木工会木工研究会によるウィンザーチェアーの講習会にスタッフと共に参加しました。1日を通してのハードスケジュールにもかかわらず、60名近くの参加者が集まりました。講師陣が素晴らしく、また、博物館に展示される様な素晴らしいウィンザーチェアーが30脚近くも会場に並べられ、実際に座ることが出来、非常に密度の濃い講習会となりました。

     

とてもユニークで会場の関心を集めました。                                      ↑すごく完成度の高い美しい子ども椅子
  

  第1部で、まず口火を切られたのは、武蔵野美術大学名誉教授の島崎信先生です。
「生活デザインの伝承と創造」をテーマに「ウィンザー大全」執筆の理由と、現在開催されているハンス・ウェグナーの椅子展という2つの切り口からお話下さいました。
 
 椅子の源流になったのは、イギリスのウィンザーチェアー、アメリカのシェーカーチェアー、明の椅子、ウィーンのトーネットチェアーの4つであること。ウェグナーを始め、世界の名だたる近代のデザイナーがこの源流を学ぶことから始まって、オリジナルのデザインに発展していったということからも、世界に昔からある物の中で、今日に伝承するに値する作品を今日の技術のもとで、暮らしに生かし、美意識を研ぎ澄ますことが重要であるという事について説かれました。
 「中でもウィンザーチェアーは、生活道具として、庶民の生活の中から必要に迫られて発祥した椅子である。産業革命以後は、多種の木の組み合わせとパーツごとの制作というそれぞれの土地での適材適所での分業という形で発達し、現在の家具メーカーのラインでの制作へ繋がって行った。それと共にデザインも発展していった。
 生活道具としての椅子という観点から、伝承ということがとても大切である。日本の場合の例として、民芸運動の中心となった池田三四郎氏(松本民芸ん創設者)と吉田璋也氏(たくみ工芸店開設)の2人の創作活動から、どちらも伝承を突き詰めることからそれぞれのスピリットが浮き彫りとなり、現在の創造へつながっていった。 
 これからの物作りをしていく人へ。 伝承へのオマージュが未来への創造につながるので、幅広い世界のことを学んでほしい。」


 第2部は、村田コレクションのオーナーである村田洋子さんのお話です。この日、並べられていたほとんどが故村田新蔵氏と妻の洋子さんが生涯をかけて蒐集された多くの物の一部です。 工業化以前の人間が科学技術の進歩に圧倒される以前の(村田氏の言葉)民衆の中から生まれて来た暮らしの道具を集められ、埼玉県春日部市に様々な道具に囲まれてお茶を頂ける資料館を開いていらっしゃいました。30年ほど前、私も伺ったことがありますが、近世の生活を想わせる薄暗い空間にたくさんの貴重な民具が置かれていて、まるで当時にタイムスリップした様でした。
 

「住まいが人間にもたらすのは、やすらぎのなかではじまる生の根源的な感情であり、あたたかく人々をつつみ、疲れを癒し、再び人々を意欲させ、働くよろこびをも、もたらすのであります。」 
 1973年4月。村田新蔵氏の言葉より。

 
 




 第3部は、九州産業大学名誉教授である山永耕平先生による「ウィンザー制作工程と道具」のお話です。
ご自身の作業の様子などのスライドを元に作る工程を説明して下さいました。
ウィンザーチェアーは、型での制作が代々受け継がれていったので、図面が残っていないそうです。それを体系的に図面化されたそうで、貴重な資料となっています。



  第4部は、「ウィンザー大全」を上記の先生方と共に著し、編集もされたライターの西川栄明氏で、本に基づいて、当日会場に並んでいる椅子たちを説明して下さいました。なんと、「ウィンザー大全」の表紙になった椅子も会場に並んでいました。 ウィンザーチェアーと呼ばれていますが、実際にはウィンザーでは、制作されていず、「ウィンザーの方から来た椅子」という意味でネーミングされた様です。ウィンザー周辺のハイウィッカムで、盛んに作られ、当時の様子の貴重なビデオを見せて頂きました。 西川さんのもとには取材された貴重な資料がたくさんあり、会が終わった後も西川さんを囲んで、話が尽きなかった様です。


 最後、第5部では、現代のウィンザーチェアー作家からのお話です。
 
 まず、3年前に惜しまれて他界した村上富朗氏について、お昼の休憩時に流した村上さんの制作のDVDに触れながら、谷の方から紹介がありました。村上氏は、アメリカウィンザーチェアーの発祥地フィラデルフィアで学び、帰国後制作を始めましたが、伝統的なウィンザーチェアーを極めながらも、オリジナルティーあふれるディテールの椅子を生み出しました。 (この文章も村上さんが作って下さった椅子に座って書いています。優しい笑顔を思い出します…)

 

 次は、横山浩司氏とデニス・ヤング氏の話です。お二人は共に松本民芸で修業をされました。
横山氏は、40年という月日、ウィンザーチェアーを制作していますが、現代の暮らしと技術にあった独自の制作方法を取られていて、会場の関心を集めました。横山さんからは、松本民芸の生活館時代に、池田三四郎氏から、理屈ではなく、感じることが大切だと、感性を育てる指導を受けたことを懐かしそうに話されたのが、とても印象的でした。

 
 デニスさんは、来日して松本民芸で修業後、イギリスに渡り、ハイウィッカムで椅子作り学んだそうです。ただその頃は、近代化の波でウィンザースタイルの椅子は下火となり、代わりに都会的なジョージアン様式の椅子が主流となっていたそうです。しかし、幸運にもデニスさんは、昔ながらの作り方と手工具を使いこなすその頃唯一の工房で、伝統的な椅子作りを学ぶことが出来ました。その後、ジョージアン様式の椅子作りにも携わり、貴重な体験をして、母国アメリカに戻ったのち、来日されて安曇野で仕事を始めました。 
イギリス滞在中、晩年のバーナード・リーチを訪ね、氏に
「美しいものをどの様に感じたらいいのでしょうか?」と尋ねると、「人間の美しさが分かれば、物の美しさが分かる様になります。」との答えが返ってきたそうで、その言葉を今も池田三四郎氏の教えと共に大切にされているそうです。

     

                             ↑座を仕上げるトラディシングングアイロン    ↑座を釿で削るデニスさん(修業時代のビデオより)

 トリは、小島優氏。17歳で単身イギリスに渡り、木工家のもとで、伝統的なイギリスの椅子作りから現代に通じる自由な椅子作りまでを学んだそうです。20歳で初個展後、ほぼ毎年個展を開催されているそうで、お若いのにすごい方でした。 これからのウィンザーチェアーは、伝承とクリエイトを真摯に受け止め、古い物からインスパイヤーして、新しいものを作っていく事が大切で、そのためには、何よりも物を見る目を養っていくことが必要とされますと話されていたことが印象的でした。


 最後に島崎先生から総括として、時代のうねりの中で、生活マインドを大切にした自分スタイルの家具作りをして行ってい欲しい。そのためにも、これからの作り手は、はデザイン・技術・流通のそれぞれが水平方向に動くプロセスを視野にいれて仕事をすることが大切であると結んで下さいました。
 
 本当に充実した1日でした。長野県内を問わず、東京、金沢、愛知・新潟など遠くからも集まって下さいました。上松技専の生徒さんたちも先生と共にもたくさんいらしいて、これから進む道を考えて行く上でも良い参考になったのではないでしょうか…