こころもよう no.10  2011.12月


 たいせつに 

 
 
幼い頃、服・小物はほとんど母の手作りでした。アプリケや刺繍、模様編みのセーターなど、今でも大好きだった服が目に浮かびます。手袋はちゃんと5本指の赤の地に細かい編み込みで、私が片方をなくしてくるたびにまた編んでくれました。ある時、作ってもらったばかりのお気にいりのスカートにかぎ裂きを作ってしまい、泣きながら帰った翌朝、可愛いポケットがついていて、もっと素敵になっていたのを覚えています。

 

昔はどこでもそうでしたが、実家ではなんでも手入れや修理をして使いきりました。(電気製品などはほとんど父が修理して2倍の寿命でした。)服はシンプルなデザインで質の良いものを親が選んでいました。年頃には流行のものにあこがれ、反発した時期もありましたが。けれどそのようなものは、いつのまにか飽き、ダメになりましたが、親に買ってもらったシンプルな質の良い衣類のいくつかは今でも着ています。大切にしているコートはなんと現役35年。よそ行きにしていたせいでそんなに着てないということもありますが。 生地と仕立ての良いものは、流行にとらわれないシンプルなデザインであれば、本当に長く着られます。


 衣替えをしていた時のこと、しばらく着ていないジャケットをみつけました。生地もよく、お気に入りでよく着たのですが、肩パット全盛期のもので全体に大きめで肩がいかって、合わせてみると何となくおかしいのです。肩パッドをとって、少し肩の位置を動かせばまた着られるのにとは思ったのですが、私の洋裁の力量では無理… 処分するにはしのびず、仕方なくまたクローゼットの奥にしまいこみました。気に入っているものが着られないということは寂しいですね。特に外出着はそれほど着ていないので、痛みもなく、現役で着られるというのに。服であっても命を全うさせてあげたい… 大好きなのでまた着たい…


 そんな時、ある雑誌で服の直しの専門店(東京銀座)を知りました。サイズの合わないものを身体にフィットさせたり、デザインの古いものをリデザインして仕立て直すことで、また新しい命が吹き込まれるという紹介でした。早速、上京に合わせて予約を入れ、わくわく、どきどきしながら、お店を訪れました。私の前にはスーツを直している若い男性がいらっしゃいましたが、左半身にはピンを打って、身体にぴったりと沿っていました。へぇ、こんなに変わるんだと感心。期待に胸がどきどきします。
 
いよいよ私の番です。女性のベテランのフィッターの方が担当でした。ジャケットは肩だけ、直せばよいのかと思っていたら、一か所のみだとバランスがとれません。 薦められるままに身幅も袖幅も直すことに。こんなにいじって大丈夫なのかしらと思うくらいです。でもピンを打った側のジャケット姿を鏡に映してみるとすっきりしていて、左右で全く違います。そこで、もう片方もピンを打ってもらうと、身体にフィットさせるというのはこういうことなのかと合点。ついつい、ヒップを隠そうと長めの丈のものを選んでいたのですが、着丈も今風にやや短くしてみるととても軽快な印象です。フィッターの方は、着るシーン、合わせるものものなどひとつひとつ確認して提案して下さり、信頼感が持てましたので、思いきってお任せすることにしました。 季節の変わり目でとても混んでいて出来上がるのは2ヶ月後ということでした。


 出来あがったという連絡を頂き、試着をしてみると… オーダーしたようにぴったりで、背の低い私には丈も丁度よく、以前よりもずっと素敵になっていました!元の素材と形を壊さずに直すというのは、どんなにか難しい技術と手間のいることでしょう。新しく作るほうがきっと簡単に早く出来ることと思います。もちろん、仕立ても完璧でした。これでまた着られると、本当にうれしく思いました。フィッターと職人のレベルの高さを実感!
 
 工房でも、こちらで制作したものはメンテナンスや修理を承っています。この春、谷が30年ほど前に作った飾り棚を修理しましたが、大切に使って下さったことが見てとれ、今後も大切にして下さるのかと、感慨深く思いました。工房ではこれからも、メンテナンスをすることで長く使える様に、良い素材で良い仕事をしていきたいと改めて思いました。