こころもよう no.11  2012.4月


 花のうつわ 

 


 一面の枯野の信州にもようやく草花が少しずつ芽吹き始めました。一年でもっとも美しい花の季節もまもなくです。 梅・杏・桜・桃などがほとんど時を同じくして咲き競い、それは美事です。工房の周辺では、桜も染井吉野、山桜、御衣黄と次々に楽しめます。

 






  庭や野の花を生けると、心がほっと安らぎます。もちろん、野にあるままを眺めるのも楽しいですが、花器との取り合わせで思わぬ造形が出来上がり、新たな魅力を発見することもあります。茶人の利休の茶花も一期一会の出会いが凛とした美しさを醸し出しているのだと思います。 最近は、ギャラリーの器の展覧会でとても斬新な生け花に出会うことが多くなりました。花人を問うとほとんどが若い男性のようです。様式に捉われず、空間の雰囲気をうまく捉え、器も見事に生かしています。今の時代の感性が伝わってきて、とても格好いいですね。



 私が花好きですので、KUKUでも花器を色々と作っています。ずぼらな私が企画しますので、花一輪を何気なく挿すだけで楽しめるデザインのものが多いですね。窓辺に吊るすと楽しいBRANCO,どんな空間にも合うICHIRIN、意外性のあるマーキス、フレームが結界を作るHANAGAKUなどです。欲張って掛け・置き両用にしています。たった一輪の花でも人を優しい気持ちにさせてくれます。


 花を生ける器としては籠が好きです。籠というと、今でも悔やまれる思い出があります。20年以上も前のこと。青山の骨董店で古い手つきの籠に出会いました。何ともいい味が出ていて、手に取りしばし見入ってしまいました。まだお花のお稽古を始めたばかりで、花器の金額としては高価でしたので、後ろ髪を惹かれる思いでその時はあきらめたのですが、どうしても忘れることが出来ませんでした。決意をして翌月再び訪ねたのですが、もうどなたかのお手元に行ってしまっていました。ものとの出会いの大切さが身にしみた経験です。


 展覧会で良く使うのがバスケタリー作家の深井美智子さんの籠です。必ず、お客様の目にとまり、籠のことを聞かれます。木の皮を使ったり、独特の網目で不思議な形を構成したりと、いわゆる籠の概念では捉えきれない不思議な魅力があります。躍動的な魅力にあふれていて、どんな花も楽しく見せてくれます。つたない私の腕でもいつも籠の持つ力が助けてくれます。 心ひかれる花器も随分と集まって来ました。もう、増やすことはやめようと思っていた矢先のこと、思わず花を生けてみたいという衝動にかられた花器に出会ってしまいました…
 

  
中西洋人さんというまだ20代後半の木工作家の作品です。一見すると発掘された土器の様な雰囲気。生木をろくろで挽いて形を作ってから乾燥させるので、乾燥の段階で木が動き、割れや魅力的な歪みが出てきます。また節や虫食い、うろなどをあえて取り入れ、自然の造形としてうまく生かしています。朽ちた木の美しさに思わず見惚れてしまいました。花人坂村岳志氏とのコラボレーションが見事で、花も花器も絶妙な味わいを醸し出していました。  ギャラリーに一歩足を踏み入れた瞬間、作品や花から不思議なオーラが伝わり、わくわくしてきました。そのうちにどうしても中西さんの花器に私も花を生けてみたいという思いがふつふつとわいてきました。花器が「あなたも生けて下さい」と言っているようでした。私は、栗の木の小さな花器を選びました。石灰乳を塗って磨いてあるそうです。 会期が終了し、先日私の手元に求めた花器がやってきました。ちょうど展覧会のDMの撮影用に使った野の花があったので(我が家の庭の木々の芽吹きはまだ先です。)そっと挿してみました。一枝入れただけで、芽吹きの枝が不思議な雰囲気を醸し出しました。まるで花器から生えている様な一体感があり、枝が喜んでいるようにも感じられました。 これからの花の季節、色々な花器で気負わずに野の花を生けるのを、楽しみたいと思います。