こころもよう no.12  2012.8月

 ある切り抜き記事から 



 梅雨明けと共に襲ってきた猛暑。毎年、この頃は展示会の予定があり、夏バテなどと言っている余裕のない状況でしたが、今年は少しゆっくりと過ごしています。ところが、標高の高い我が家でも日中30度を超えると身体がやたらに重い、集中力も途切れがち… さて、どうしたものか… こんなときは、身のまわりを整理をするか、無心に出来る庭の草むしりに限ります。 

 
あちこち、とりあえずと積んである様々な資料や切り抜き。読もうと思って「積ん読」状態の本や雑誌。ずっと捜している資料を見つける良い機会かもと思いながら、取りかかりました。  普段から常にきちんと整理をしながら仕事をしたり暮らしたりしているわけではないのですが、整理をするのは嫌いではありません。仕事をし易く、暮らしやすくするための整理は心地よいものです。まめには出来ないので、とりあえずboxをあちこちに置いてありますが、それが半端でない量に… 思い切ってはじめてみると、思いがけずに貴重な資料に出会い、物事を見直す良い機会となりました。  


 5月に98歳で他界された音楽評論家の吉田秀和氏。すっかり忘れていたのですが、整理を始めると、氏に関するいくつかの切り抜きが見つかりました。吉田氏については、著作を読んだことはありませんがたまに朝日新聞で評論を拝見していて、その独特で美しい日本語の表現が強く印象に残っていました。ちょうど特集番組が放映されていましたが、録画をしたままでしたので、その番組を見てみました。  
 
 吉田氏の最も有名なエピソードはホロヴィッツ事件でしょうか。私もその事件は記憶にあります。世紀の天才ピアニストが78歳で初来日しての演奏会。ミスタッチもあり、絶頂期の演奏とは比べようもないものだったそうですが、日本の聴衆も評論家も絶賛したのです。
 その中で、吉田氏は、「今、私達の目の前にいるのは骨董としてのホロヴィッツに他ならない。それも無数のヒビが入っている」と評し、世間が騒然となったのです。周囲の意見や流行に流されずに自分の感じたことに素直に従い、表現をされたのです。常に “そこに自分の考えはあるか?” という姿勢を貫かれました。自分の頭で考えること・自律した精神の大切さを実践されたその生き方に感銘を受けました。


 「見抜く力がすごい。先入観に捉われず、色々なことがぱっとひらめき、瞬時に判断でき、それを誰もがわかりやすく、噛んで含めるような言葉で文章に表現してゆく素晴らしさ。真似を出来る人がいない。そしてその文章には駄目なところははっきりと指摘するが、必ずどこかにその人の良いところも認めるという相手への礼も欠かさない。そしてあくまで考えを押し付けるのではなく、あなたはどう思うかと語りかける。」 と評されています。(番組から) このような姿勢があの独特な文章表現になったのだと、納得。  


 その吉田氏に“最悪の絶望”と言わしめたのが、3.11 であったそうです。『想定外』という言葉を連発する人々に対し、「自ら考える力、想像力が備わっていなかったのではないか。この国は病んでいる。戦後60年たっても、日本人は変わっていなかった、何も変えられなかった…」 という失望の言葉を残されています。 日本の文化に尽くし続け、亡くなるその日まで日本のこれからを案じていらっしゃいました。
 
 吉田氏の生き方から、論語の「知命」という言葉を思いました。孔子によると50歳は自ら天命を知る歳なのだそうです。広く解釈すると、自らの心を知るということでしょうか。私は、その年齢になっても、とてもそんな境地に達することはできませんが、吉田氏は、様々な研鑚を積むことで、その境地に達し、自分の信じる道を切り開かれたのでしょう。大きな感動と大切なことを教えて頂きました。


 何か少し行き詰まった時、自分が気になって取っておいたものを見直してみることで、自分がどういう視点で物事を見ていたのかを知ることができ、もう少し広い視野で物事を見られる様に思います。 何か新しいことをしなくても… 他の記事からも、自分自身を振り返る良いきっかけをもらえました。前を向いて一心に進むことも大切ですが、ちょっと立ち止まってみることも、たいせつですね。


 しばらく見ることのなかった資料やスクラップ、いっそ、すべて処分しようかとも思ったのですが、吉田氏の記事をきっかけに、日記の様でもあり今後のヒントにもなりそうなので、“厳選”したものをもうしばらく残すことにしました。時々、自分自身と向き合うきっかけになればと思います…  
(分類してクリアファイルに入れておくだけですが…)     

     



※ このあと、吉田氏の「わたしの好きな曲」を読み始めました。その時の気分で、目次を見ながらアトランダムに読んでいます。 これまで知 らなかったクラシックの楽しみ方を教えて頂いています。
50歳で急逝したグレン・グールド。演奏をネットで聴いてみてびっくり。好き嫌いは分かれる所でしょうが、現在はまっております。 便利な 世の中になった  もので、YOU TUBEで色々と楽しめます。
     よろしければ…