こころもよう no.15  2013.0708

 2つの展覧会 




 先日、2つの展覧会を観てきました。ひとつは、名古屋市のhaseというギャラリーで開かれた「存在と恩寵」というタイトルの福田匠さんという若い作家の初個展。もうひとつは、隣町の東御市で開催された彫刻家船山滋生氏の遺作展。奇しくも、デビュー展と回顧展という始まりと終わりを意味する対極の展覧会でしたが、共通するものがある、心にずしりとした感動を覚えた展覧会でした。



web上で名古屋市のギャラリーでの展覧会が紹介されていました。 名前を聞いたことのあるギャラリーでしたので、ブログを拝見すると、見たことのない不思議な作品たちが紹介されていました。
なんだか胸騒ぎの様に、観たいという思いが募りました。タイミング良く、木工家ウィークの企画に参加して名古屋を訪れることになっており、ぎりぎり会期に間にあいました。 ギャラリーの扉を開くと、なんとも不思議な世界が広がっていました。アンティークの小物や写真などをコラージュしたオブジェと言ったらいいのでしょうか。
もしも、単体であったなら、誰も見向きもしなかったかもしれない物たちが、組み合わされ、作家の感性に導かれ、手を加えられ、まったく別の形に表現された作品がとても静かな佇まいで並んでいました。静かではあるのですが、作品の中に潜む何かが心を捉えるのです。この様な作品に出会ったのは、初めてです。


 ちょうど作家が在廊しており、お話を伺うことができました。50代位の作家を想像していた私はあまりの若さに、そして初めての個展であることに驚きました。円熟味さえ感じられる独特の表現力、イメージを自在に形にする豊かな感性、高い美意識。恥ずかしげに話しかけてくれたナイーブな青年を思わず見つめてしまいました。 

 どの様にしてこのような作品を生み出したのですかという様なことを伺うと、「美大生の頃から、とにかく本ばかり読んでいました。特に民俗学が面白くてそこから色々なことを学びました。」と。幼子がじっと蓄えた経験をひとつずつことのはに表してゆく様に、好きで集めていたアンティークの様々な断片を独自の感性で構築し直すという手段を通して、作品を生み出していったのでしょうか。

 自らのデザイン・装丁・構成による素敵な作品集を頂いてきましたが、どのページも写真であってさえ、胸がドキドキします。 来年は、東京でも展覧会があるそうで、とても楽しみです。



とうとう最終日になってしまった知人の船山滋生氏の遺作展。ちょうど友人やお身内の方々もいらしていて、作品を拝見しながら思い出を語りました。私が知っていたのは、氏のほんの僅かだったのだと、思い知らされたすごい展覧会でした。小説家船山馨氏の次男で、佐藤忠良氏に影響を受けて彫刻の道に進み、水上勉氏の装丁や挿画を手がけ、朝日新聞の「声」の欄のカットも13年に渡って、担当していましたので、御存じの方も多いのではないでしょうか。


会場で紹介されていた2003年に開いた個展の図録に書かれた文章を記します。
その光輝や熱を含めて、背後に光を感じてはいる。  しかし、私が見るものは、その光が照射する眼前の風景であり、私自身の影だ。なにひとつとして、不変なものはない。たとえ、徐々に枯れて行く木の葉がその葉脈を露わにし、あるいは、策略を巡らす一匹の蜘蛛が描きだす見事な銀糸の造形に、ある摂理を感じたとしても、私が共感するのは、来るべき次の季節に向けて、変容する木の意思であり、生き延びようとする蜘蛛の意図に向かってである。 上手の手から水が漏れるようにして、この世界は生まれたのだと思う。 自身の影の長さをはかりながら、揺らぐ風景の向こうに、もう一つの風景を捜している。


 会場の入り口にあったこの言葉の意味を考えながら会場を観て歩きました。 彫刻は、ブロンズ、石、木と様々な素材を使っており、具象から抽象まで幅広い表現が展開されていました。素人の私が申すのもおこがましいですが、デッサン力がすごい。なんというか、彫刻は形のシルエットにとても安定感があり、絵は、線の1本1本の表現に無駄がなく、それぞれに意味を感じさせます。とてもうまいのですが、それだけではなく、説得力があるというか、確かな形で想いを伝えているという様な感じでしょうか。
 ひとつひとつの作品と対峙して、メッセージに想いを馳せ、次第に魅せられてゆきました。   

 
 主旨は異なるふたつの展覧会。共に今という時代だからこそ現れたのだと感じさせられました。船山氏が 「芸術家とは美神と約束を交わした存在であり、その約束を果たしていくことが芸術家の行為であり、表現である」 という言葉を遺されていますが、まさに2人は、今という時代にその美神に使わされた人なのかも知れないと感じた感動的な展覧会でした。 

※ 上記の画像は福田匠作品集、梅野記念絵画館HPより