こころもよう no.17  2014.05.15

 新しい風 


 信州にもようやく遅い春が訪れ、草花や木々が芽吹きはじめまもなく、美しい新緑の季節が始まります。 工房では、今年度から新しいスタッフが加わりました。前回のKUKU便りでは、工房を巣立って行ったスタッフについてご紹介しましたが、今回は現在一緒に仕事を頑張ってくれている谷工房・スタジオKUKUのスタッフをご紹介したいと思います。

 私どもの工房では、スタッフは皆、将来独立を目指して仕事をしています。長い人生でここで過ごす年月はほんの通過点ではありますが、技術・知識・感性の面でも出来るだけたくさんの事を学び、人間性を磨いて将来の自分の仕事につなげていって欲しいと願っています。厳しい環境の中で、目標をしっかりと持って努力して行くことがことが、この仕事を続けて行く上でとても重要な要件となります。世間一般と比べ、お給料も低く、休暇も少ないですが、それに代わるものを得て、自分を鍛えて大きく成長して巣立ってゆきます。
 4,5年で多くのスタッフが辞めて独立してゆきますが、ようやく仕事を任せられるようになると、次の新人にバトンタッチです。私達はまた0から共に仕事をして行く。育てるというよりも、育つ環境を提供して見守るといったらいいでしょうか。このやり方を30年以上続けて、10人以上のスタッフが独立してゆきました。 年を重ねて来ると、これはかなりしんどいことなのですが…

 4年目に入った岐阜のたくみ塾出身の27歳の山口と、今年上松の技術専門校を終えたばかりの26歳の新人旭の2人がスタッフとして一緒に仕事をしています。仕事場では谷と2人のスタッフが平行に自分の作業台を並べて制作をしていますが、一生を共にする道具として厚手の無垢材の作業台は自分で作ります。作業台が出来上がると、なにか覚悟の様なものが出来るように思います。


 現在先輩は注文の仏壇の制作を谷と共に進めています。新人は、お箸の仕上げの仕事をしています。3ケ月の研修内容を山口に相談すると、即座に「お箸の仕上げがいいです」との答え。そういえば、最初に彼がお箸の仕上げをした時、私が検品して何度かやり直しがあったことを思い出しました。彼なりに完璧と思って、出来ましたと差し出しましたが、すべてのお箸にOKが出るには何回かのやり直しがありました。3段階のペーパー仕上げをしますが、最初の段階がいかに大切か、確認作業を徹底すること、ひとつひとつの仕事の意味を理解すること、使い手のことを想うこと、自分なりのモチベーションを保つ事など、たかがペーパーがけ、されどペーパーがけなのです。最初は簡単と思っていたペーパーがけから、工房の基本の姿勢を学んでゆきます。
 山口は途中からスタッフとして一人での年月があり、私に厳しく叱られたり、色々な苦労も経験しましたが、作ることが本当に好きで、自分なりに創意工夫をして仕事にあたって来ました。日々、ともに仕事をしてきて、少しずつ成長しているので、普段はそれほど意識していなかったのですが、こうして新人が加わると、先輩スタッフとして、本当に頼もしくなったなぁと実感しています。そして今は、工房にとってなくてはならない存在になりました。彼は大学時代を過ごした関西で、作家という位置づけとは異なる形での独立を考えているようで、楽しみです。

 入って来たばかりの新人もお箸の仕上げをしながら、色々なことを学んでいます。工房では、日誌を付けますが、研修期間は特に丁寧に記入してもらい、先輩スタッフと私がコメントをして翌日渡します。別棟で仕事をすることの多い私にとっては大切なコミュニケーションのひとつです。私達が当たり前にしていることも新人にとっては初めてで、しばらくは覚えることがたくさんあります。工房では日誌のほかにCONTACT SHEATという制作記録も記入していきますが、工房で共有してゆくものはすべて第三者を意識して自己満足ではない客観的な文章を綴ってゆくことなど、当たり前のことではありますが、ひとつひとつ確認しながら進めてゆきます。携帯電話に慣れている世代にとっては、第三者との電話での応対も緊張する一瞬です。慣れないことがたくさんあり、緊張した面持ちで作業をしていますが、自分なりのモチベーション持って次につなげていって下さい。期待しています。

 新人の存在は、私達にもそれなりの緊張感を伴い、色々な意味で新しい風を起こしています。私も普段の自分の仕事を改めて見直す良い機会となり、今年は新しいことにいくつか挑戦してゆこうと考えています。色々な場面で、人とのつながりが仕事を作ってゆくということを、改めて実感する新鮮な季節を迎えています。どうぞ、今年度も工房・KUKUの仕事を見守って下さいませ。180cmを越える長身の2人のスタッフともども、どうぞよろしくお願いいたします。
                      「私もスタッフの一員として見守っておりますわよ。」あんこ

 2014年4月記